第5回 観る力の発達
https://www.nyseikatsu.com/api/721/pdf/page22.pdf
私は今、ドイツで、発達障害・機能障害を持つ子供たちのためのニューロ・プラスティシティ・セラピーを勉強しています。全課程1年半のコースの初めの3日は、赤ちゃんが生後1年の間に、将来その子の人格の基礎となる心身の動きの機能を、どのようにして発達させていくのかについてです。昨日は赤ちゃんの感情を読む練習でした。
赤ちゃんの目は、まだ大人の目のようには物事を見ることはできません。大人は、目から入ってくる情報に過去の経験をもとにしたフィルターをかけて、受け入れるか否かを選択することができます。赤ちゃんは、この選択機能が発達しておらず、目から入ってくる全ての情報をお腹(五臓六腑)の中で感じ取るのです。この機能が前回のコラムでお話した「心で観る」機能です。目という玄関から入ってきた情報という全てのお客様をウェルカムするのは、お腹なのです。つまり、私たちは生まれながらにして「観る」機能を持っていることになります。
赤ちゃんは、恐れを知らず興味関心の向くまま行動・移動し始めます。何にでも手を伸ばし、口に入れることで世の中を学んでいきます。そして、何かあるごとに止まってお母さん(あるいは、主なケア・ギバー)を振り返ります。この時、アイ・コンタクトでお母さんの感情を読み取るわけですが、目を通して相手を感じるとき、お腹の中で何か不思議な生命体が蠢くような体感が生じます。ムーミン谷のニョロニョロをご存知でしょうか? まるであのニョロニョロたちが所狭しと動いているような、妙な感覚なのです。このニョロニョロたちの動きは、目から入ってきたお母さんの感情という情報の反映なのです。そして、このニョロニョロの動きが作り出す体感が、赤ちゃんの感情の始まりです。赤ちゃんは、このようにして、お母さんから感情を学ぶことになります。相手の感情をお腹で処理、つまり消化するのです。この消化力が、実は私たちの「観る」力なのです。お母さんが、落ちついて優しく見守ってくれているのを感じることができれば、赤ちゃんは安心して、さらなる人生の冒険を続けることが出来ます。この「お母さんの存在にサポートされた冒険」という経験が、大人になった時の自信の基礎となっていきます。赤ちゃんに、嘘、偽りは通用しません。ですから、お母さんが不安になっていると赤ちゃんも不安になりますし、イライラしていると赤ちゃんもイライラしてしまいます。
真実を見抜く能力である「観る」力は、赤ちゃんの時には全ての人が持つ自然なものだったのです。「観る」力は、消化力そのものであり感情力の主体でもあるのです。周囲を見ればお分かりかと思いますが、せっかくの神様の贈り物は、現代では多くの人の人生において閉ざされています。でも、ご安心を。一度閉ざされても、もう一度開く方法が存在するのです。