第三回目「基礎知識 2–腸内細菌と免疫システム」
今回は、人間が生まれた時から、どうやって免疫システムを築き上げていくかについてお話します。前回のコラムで説明したように、腸内細菌叢が免疫システムその物であると言っても良いほど、その役割は私たちの健康に不可欠である事を思い出してください。
赤ちゃんは、外敵への抵抗力は0で生まれて来ると、考えれば良いでしょう。生まれてから、徐々にお母さんに守られながら、自分の免疫システムを築いていきます。胎児は完全無菌状態です。母さんの膣の中、つまり産道は腸内細菌の宝庫になっています。赤ちゃんはお母さんの産道を通って世の中に出てくる直前に、腸内細菌を受け継ぐ事になります。お母さんから貰った腸内細菌が赤ちゃんの内外に徐々に繁殖して広がり、自分の免疫システムの基礎を築きます。それが生後約20日くらいの間に行われますが、この時になんらかの理由で健常な腸内細菌叢が定着しなかった場合、その赤ちゃんの免疫システムは一生その不完全なまま残ってしまうのです。
また腸壁を守るリンパ球が生産する免疫のうち、もっとも重要な免疫グロブリンAという名前の物質があります。この物質は、直接、細菌、カビ、寄生虫などといった外敵と戦ってくれる、私たちの身体を守る兵士です。これは初め母乳(特に初乳に多く含まれる。)を通して、赤ちゃんに供給されます。
人生の初めに、自分の免疫システムをしっかり構築して行く上で必要な物をお母さんから受け取り、その後はいろいろな経験を通して成長して行きながら、自分を守る事を学んで、そのシステムを作り上げていくわけです。その全ての段階で、腸内細菌叢の健康状態が基礎になります。腸内細菌叢が健常でなければ、様々な栄養素を食べ物から合成する事が出来ず、外敵から守る事も出来ず、病気になる原因を取り除く事も出来ません。もし腸内細菌叢が一掃されてしまったなら、私たちの免疫システムはその機能を果たせないという事になってしまいます。
また腸内細菌叢が健常でない腸内の状態は酷い物で、特に自閉症の子供達の小腸の後半から大腸まで、その腸壁はビッシリと宿便が覆っています。この宿便の叢は、黴菌、カビ、寄生虫などの格好の巣となってしまうのです。そしてここでは、常に毒性の物質が生産され、無防備になっている腸壁から血管へと、吸収されているのです。勿論この毒が、彼らの脳や神経にダメージを与えている事は、言うまでもない事でしょう。
人間の免疫システムの初まりに、お母さんの存在とその役割がとても大切な事が、良く解るでしょう。もし何らかの理由で自然分娩が可能でなかった場合、初乳を含む母乳を2年間続ける事をお勧めいたします。何故なら、赤ちゃん本人の免疫システムが、弱くてもお母さんの母乳に含まれる免疫システムで、十分に成長するまでサポートする事が出来るからです。そうして育っていくうちに、ある程度ダメージを受けた腸内細菌を回復できるからです。