Dr. Natasha Cambell-McBride MD, MMedSci (neurology), MMedSci (nutrition) 著
「Gut and Psychology Syndrome」の 15ページ目から。
翻訳:岡 牧子 ©Natural Healing Artists Inc. & Makiko Oka
2.木の根っこ—原因
一人の人間の体は、それぞれがまるで一つの惑星のようです。沢山の様々な微生物たちが住み、それら全ての生命の多様性や豊かさは、地球そのもののように驚嘆すべき物があります。私たちの消化システム、皮膚、目、呼吸や排泄用の臓器などには、目に見えない大小異なる無数の寄宿人たちがバランス良く調和し、仲良く一緒に暮らしています。その寄宿人たちと私たちの体は、お互いにその関り合い無しには生きる事の出来ない、共存関係にあるのです。私たち人間は、体内や体表に広がるこれらの微小な生物の存在なしに生きる事が出来ないのだという事を、私はもう一度ここで繰り返しておきましょう。
その中でも一番大きな群生は、私たちの消化システムに住んでいます。健康な大人一人の消化管には、重さにして平均1.5~2kgのバクテリアが住んでいます。これらの全てのバクテリアたちはただの無秩序な集団ではなく、特定の種が支配力を持ってコントロールする、高度に組織化されたミクロの世界なのです。彼らが私たちの体内で務める数々の任務は私たちの生命維持に必要不可欠なもので、もし私たちの腸が殺菌されたりしたら、きっと私たちは生き残れないでしょう。健康な体においてはこの微生物の世界はかなり安定していて、環境の変化にも順応できます。それでは、誰が誰なのか見てみましょう。
腸内の微生物たちは、次のような3つのグループに分ける事が出来ます。
1.善玉菌:最も重要なグループで、健康な人の場合、数的にも一番多いです。これらの菌は、人間に生来そなわった、人体に友好的な菌とされています。このグループの主要メンバーは、Bifidobacteria(ビフィズス菌属)、Lactobacteria(ラクトバシラス菌属、いわゆる乳酸菌)、Propionobacteria(プロピオン酸菌属)、Physiological strains of E.Coli(大腸菌属)、 Peptostreptococci (ぺプトストレプトコッカス菌属)、Enterococci (エンテロコッカス菌属)などです。これらの善玉菌たちが、私たちの体にとってどのように役立っているかについては、追って詳しく説明します。
2. 日和見菌:このグループに含まれる菌種は多種にわたり、その数と種類の組み合わせは一人一人異なります。このグループのメンバーは、Bacteroids(バクテロイド), Peptococci(ぺプトコッカス属), Staphylococci(ブドウ球菌属), Streptococci(ストレプトコッカス属), Bacilli(バシラス属), Clostridia(クロストリジウム属), Yeast(イースト), Enterobacteria(エンテロバクテリウム)- (Proteus(プロテウス属), Clebsielli(クレブシエラ属), Citrobacteria(シトロバクテリウム属)など) , Fuzobacteria(フゾバクテリウム属), Eubacteria(ユーバクテリウム), Catenobacteria(カテノバクテリウム) などで、さらに多くの種が存在します。これまでに人間の腸内に見つかった日和見菌は、おおよそ500種類あまり。健康な人の場合、その数は善玉菌によって厳しくコントロールされています。しかし、そのコントロールが失われると、それぞれの日和見菌が健康問題を引き起こすようになるのです。
3. 悪玉菌: 毎日の私たちの衣食住に伴って侵入してくる細菌たちです。それらのほとんどが、Non-fermenting gram-negative と呼ばれる菌です。私たちの腸内が、前出の善玉菌でしっかり覆われていれば、私たちの健康に害を及ぼす事なく消化管を通過するだけです。しかしながら、善玉菌の数が減るといったダメージが起こり、それらがうまく機能しない場合には、病原となります。
Non-fermenting 醗酵しない。gram-negative 細菌の種類を見分けるGramテストで赤く染まらない。体内に入ると、私たちの免疫が反応して、炎症などを起こす。
さて、これらの微生物たちは、私たちの体内で一体何をしているのでしょう?また、何故私たちは彼らを必要としているのでしょう?
健康と腸の完全性
人間の消化管は長いチューブ状で、入口(口)と出口(肛門)の両方が体の外の世界に向かって開いています。そして、外の世界に住む者たちにとって、それがどのような物であっても、私たちの消化管が、体内への調度良い侵入口となってしまうのです。結果的に私たちは毎日、微生物たちや化学物質や毒を食べたり飲んだりしているのです。にもかかわらず、私たちはどのように生き延びているのでしょうか。
その主な理由の一つは、私たちの長い消化管全体が、まるで壁にペンキを塗ったように細菌層でコーティングされていることです。腸の上皮などは、草が根を張った表土層のように厚い層の細菌バリヤーで覆われ、侵略者や未消化の食べ物、毒や寄生虫などから守られています。でも、もしその細菌バリヤーが壊れていれば、表土層が破壊された土地のように侵食されてしまいます。私たちと友好関係を結んでいる善玉菌たちは、どのように腸壁を守っているのでしょう?
物理的なバリヤーの役目の他に、この善玉菌たちはウイルスや細菌の細胞膜を溶かしてしまうインターフェロン、リゾチーム、界面活性物質などを含む、抗生物質に似た物質や揮発性のカビ防止物質、抗ウイルス性物質を生産して病原菌の侵略を防ぎます。つまり、それぞれの侵略者に適した免疫システム(兵士)を交戦させる事が出来るのです。それに加えて、この善玉菌たちは有機酸を生産し、腸壁周辺の環境をpH4.0~5.0の酸性にする事が出来ます。病原菌(悪玉菌)が活動しやすく、成長しやすい環境はアルカリ性なので、それらにとって非常に居心地の悪い環境になります。
私たちの体内では、摂取する食べ物と飲み物からの全ての毒に加え、病原菌たちも非常に強力な毒を大量に作り出しています。私たちの健康な腸内細菌は、硝酸塩、インドール、フェノール、スカトール、ゼノバイオティクスやその他の数々の毒性物質を中和し、ヒスタミンを不活性化し、重金属などの毒物をキレートする事ができます。善玉菌の細胞壁は、多くの発癌性物質を吸収し不活性化してしまいます。そして彼らは、癌細胞形成の基本となる腸内での異常増殖の過程をも抑制してくれるのです。という事は、この人間と友好関係にある腸内の善玉菌たちがダメージを受け、機能しなくなると、城壁内の街は守られないという事になります。これがGAPS患者の腸内にみられる典型的な状態です。この無防備な状態の腸壁は、ワクチンや環境からのウイルス、何処にでもいるカンジダ・アルビカンスなどのカビ、そして様々な細菌、寄生虫と毒性の物質など、どんな侵略者にも、「来て下さい」と言わんばかりに、大きくドアを開けているような物なのです。これらの全ての侵略者たちが、私たちの消化器官にダメージを与え、消化管壁における慢性的な炎症を引き起こす能力を持っています。それから、善玉菌にしっかりコントロールされているはずの日和見菌を忘れてはいけません。彼らは、お目付け役である善玉菌が弱って隙を作るのを、じっと待っているのです。顕微鏡を使っての生体組織検査で、健康な人の場合、善玉菌が厚く帯状に腸の粘膜を被い、粘膜を何の損傷も無い健全な状態に保っている事が解っています。炎症性腸疾患の場合、種々の病原菌が粘膜内や腸細胞内にまでみつかります。という事は、善玉菌で作られるはずの帯状の防衛壁が壊れ、病原菌が聖なる腸壁にまで達してしまっているという事です。
そしてもっと酷い事に、腸内細菌叢が正しく機能していないと、腸壁の防衛装置が壊れるだけでなく、腸壁自体が栄養失調に陥ってしまいます。正常な腸内細菌叢は、消化管内部の細胞に主なエネルギー源と栄養を供給しています。腸の上皮に住む善玉菌は、私たちが食べた物を消化し、腸の内膜のための栄養物に変換しています。実際に、腸の上皮は、大体エネルギーの60~70%を善玉菌の働きから得ていると推定されています。腸内細菌叢がその機能を損なうと、栄養物の生産が不十分になり、さらに腸壁にダメージを及ぼす事になります。それは、消化管壁の構造の老化、あるいは退化への仕組みを作り上げてしまう事になり、栄養物の消化吸収力をさらに損なっていく事になります。
貴方の子供の腸に何が起きているのか正確に把握するために、ここで腸の内膜を解剖学と生理学的観点から見てみましょう。吸収性の腸の表面は、見事な指のような形の突出部を持っています。それを絨毛と呼び、その絨毛間に深い陰窩(細胞生産工場のような物)があります。そして、エンテロサイトと呼ばれる絨毛を覆っている上皮膜細胞が、消化プロセスを仕上げ、食物の栄養を吸収します。この細胞達の仕事は重労働なので、その仕事を十分にこなすには、常に若くて元気でなければなりません。いつもの事ながら、母なる自然はとっても素晴らしい方法で、そのように手配してくれました。これらのエンテロサイトたちは、絶えず深い陰窩のなかで生産されています。そして彼らはゆっくり絨毛の先端まで旅をして行く間に、消化と吸収と言う仕事をしながら成長していきます。絨毛の先端に到着すると、彼らはその寿命を終えるのです。このように腸の上皮膜細胞は、常に生れ変る事で十分な仕事を行えるだけの能力を確保しているのです。(図1参照)
動物実験で分かったことですが、腸内を滅菌して腸の上皮膜細胞から善玉菌を取り除いてしまうと、この細胞の再生システムは完全に機能しなくなってしまいます。これらの細胞達が、陰窩から絨毛の先端まで旅をする時間は数倍に長くなり、エンテロサイトの成長過程を混乱させ、その結果それらの細胞がしばしば癌細胞に変化してしまいます。陰窩内での体細胞分裂活動は、いちじるしく抑制されてしまいます。それは生まれて来る細胞の全体数が激減するだけでなく、健康体で生まれて来る細胞の数も、彼らのするべき仕事を適切に行える細胞も減ってしまうという事です。細胞自体の状態も異常になります。それは全て、管理者である健康な腸内細菌がいなくなり、細胞たちの世話をしなくなるからなのです。(図2参照)
以上のような事が、滅菌された実験用動物の腸内で起こる事が解りました。人間の体内では、善玉菌の欠如によって、悪玉菌が猛威を振るうようになりますので、全体的な状況はもっと悪くなります。悪玉菌叢の攻撃下において善玉菌の保護がないと、腸の上皮膜細胞の構造全体は悪い方へと変化し、病気が広がるプロセスが始まります。絨毛が老化し、食べ物を適切に消化吸収出来なくなり、吸収不良、栄養不足、そして食物に対する不耐性(つまりアレルギー)になっていきます。
腸内細菌叢こそが、私たちの消化システムの管理者なのです。消化システムを家庭に例えるなら、家庭円満の鍵はその管理者の手腕一つにかかっているわけです。私たちの消化管における構造上の完全性、その機能性、適合能力、再生力、自己防衛力などの多くの機能は、その微細な管理者—私たちの腸内細菌叢の健康状態に直接依存しているのです。
後で御紹介しますが、GAPSの子供も大人も、腸内細菌叢が大変異常な状態に陥っており、その結果として消化システムも機能不能な異常な状態になっているのです。
身体の育成
皆さんも御存知のように、消化システムの主な目的は、食べた物を消化して吸収する事です。科学的、臨床的に見て健康な腸内細菌叢なしに、消化システムはこれらの機能を効果的に果たす事ができません。その良い例が、乳タンパク質と小麦タンパク質の消化です。これらのタンパク質の消化は2段階に分かれています。胃の中で生じる消化の第1段階目では、胃壁が生産する消化液の影響下で、乳タンパク質と小麦タンパク質がペプチドに分解され、一部はモルヒネに似た構造を持つカソ・モルフィンとグルテオ・モルフィンとなります。これは私たち全員の体内で起る、正常なプロセスです。その後、これらのペプチドは、次の消化のステージが起こる小腸へと移動します。それらは膵液を浴びせられた後に腸壁へと達し、エンテロサイトの微細な絨毛の上で、ぺプチダーゼと呼ばれる酵素によって破壊されます。ここが、異常な腸内細菌叢によってエンテロサイトが貧弱になっている人々に欠けている、問題のステージです。結果的に、カソ・モルフィンとグルテオ・モルフィンは、中和されないまま血流へと吸収されていき、特に脳の機能と免疫機構を妨害してしまうのです。この辺りに関しては、自閉症、統合失調障害、ADHD、精神病、うつ病、免疫不全などの患者に関する研究がかなりされており、これらの障害を持った人々の体内で、高い濃度のカソ・モルフィンとグルテオ・モルフィンが検出されることが分かっています。それは彼らの腸壁がこれらの物質を適切に処理できる状態にない事を示すものなのです。臨床経験で、腸内細菌叢が回復すれば、多くのGAPS患者が、カゼインとグルテンをある程度食べても症状が戻らなくなる事が解っています。
腸壁を良好な状態に保つことに加え、腸壁を覆う健康な腸内細菌は、消化と吸収のプロセスそのものを積極的に担うようになっています。調和のとれた腸内細菌叢なしに、食べ物の正常な消化と吸収をする事は、十中八九不可能です。それは蛋白質を消化し、炭水化物を醗酵し、脂質と食物繊維を分解する能力を持っています。ミネラルやビタミン類、水やガス、他にも多くの栄養素を、腸壁を通過させて血管に運送するのに、この細菌活動による副産物が非常に重要です。もし腸内細菌叢がダメージを受けていた場合、世界最高の食料や栄養補助食であっても、十分に分解され吸収されるチャンスを失うかもしれません。
善玉菌の助けを借りなければ、人間の腸の仕組みでは全く消化できない食べ物もあります。その良い例が、食物繊維です。健全な腸内細菌叢を持つ腸内では、食物繊維がオリゴ糖、アミノ酸、様々なミネラル、有機酸、そしてその他の有用な栄養素に分解され、腸壁自体と身体全体に供給されるのです。大抵の人は、この食物繊維が私たちの健康に良い事を知っています。新鮮な果物、野菜、全粒粉、ナッツ、種類、豆類などは、全て食物繊維の優れた供給源です 医者達はしばしば、血中コレステロール値をさげるために、便秘や様々な消化の問題を解消するために、胆汁の代謝を促すために、大腸癌を予防するために、糖尿病患者の耐糖能を上げるためなどに、袋入り、カプセル、または飲み物など、様々な形の食物繊維のサプリメントを処方します。
頻繁に食物繊維を摂取する事の利点は、たくさんあります。そして食物繊維は、腸内の善玉菌の自然生息地でもあります。彼らは例えば、食物繊維を食べて腸壁や体全体に供給するためのたくさんの栄養をたっぷりと産出し、食物繊維を用いて毒素を吸収し、水と電解質の代謝の一端を担うためや、胆汁酸とコレステロールをリサイクルするために食物繊維を活性化します。食物繊維がこれら全ての身体に良い機能を果たすことができるのは、食物繊維に対する善玉菌たちの活動があるからなのです。しかしながら、これらの善玉菌たちがダメージを受けたり、食物繊維を分解加工処理できなかったりした場合は、この食物繊維自体が、悪玉菌に巣を与える事になり、腸壁の炎症をさらに悪化させ、消化システムにとって危険な物になり得るのです。こういったときに、消化器科のお医者さんが低食物繊維ダイエットを患者に勧めるのです。結果として、腸内の善玉菌なしには、食物繊維が、必ずしも私たちにとってそれほど良いものだとは言えなくなるのです。実際、GAPSの子供達や大人が下痢や軟便の傾向にある場合は、便が正常になるまで低食物繊維ダイエットにする必要があります。
食物繊維の他にも、大抵の人が善玉菌なしには消化出来ない物質があります。その物質はラクトースと呼ばれる、乳糖です。多くの人々がラクトース不耐性、つまりミルクを消化できないというのは、良く知られている事です。GAPSの子供達と大人は、大抵この中に入ります。これまでの科学的な説明では、私たちの多くがこのラクトースを消化するためのラクターゼと呼ばれる酵素を持たないとされてきました。でも、もし私たちが本当にラクトースを消化出来ないのであれば、何故それでも一部の人達は何の問題もないのでしょう?その答えは、これらの人々が腸内にそれに適した善玉菌を持っているからなのです。人間の腸内で、主にラクトースを消化する善玉菌の一つは大腸菌です。多くの方が驚かれた事と思いますが、大腸菌(エシェリキア・コライ)の生理的種族は、健康な消化管にとって大切は宿主なのです。彼らは健康な赤ん坊が生まれた最初の日から大量(107-109 CFU/g)に発生し、抗生物質やその他の環境の変化による影響を受けなければ、その人が死ぬまで同じ密度を保ちます。ラクトース消化の他に、この大腸菌の生理的種族はビタミンK2,ビタミンB1、2、6と12を生産し、コリシンと呼ばれる抗生物質に似た物質を生産し、同じ大腸菌種でも病原菌になる菌種をコントロールしてくれます。実際、私たちの腸にこの大腸菌の種族を密集させておく事が、病原性の大腸菌から身を守るための一番良い方法なのです。また彼らは免疫システムを適切に機能させることにおいても、大きく複雑な役割を果たしています。これについては後ほどお話します。
健康な腸内細菌叢においては、大腸菌の他にも、様々な善玉菌たちが食べ物からの適切な栄養吸収を保証するだけでなく、数々の栄養素を活発に合成しています—それらは、ビタミンK2,パントテン酸、葉酸、チアミン(ビタミンB1),リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12),様々なアミノ酸とその他の活性物質です。進化の過程で、人間がビタミンとアミノ酸の欠乏から死んでしまったりしないように、私たちの創造主は食物の供給が不足した時のことをも、きちんと想定していたようです。
創造主は、私たち自身の体内に、これらの物質生産工場を与えてくれたのです—それが健康な腸内細菌叢です。そして、この腸内細菌叢がダメージを受けたときは、十分な栄養素があったとしても私たちはビタミン不足に陥るのです。それは、何故でしょう?私たちの体内において、多くのビタミンやその他の活性物質の寿命が、非常に短い事がその理由です。ですから、一時間おきにこれらのビタミンを服用しなければ、(仮に健康な腸内細菌叢がなくても服用したビタミンを吸収できるとして)一日のうち何処かでビタミン不足になってしまう時間ができてしまいます。
このように、腸内細菌叢が壊れている人々は、身体が必要とするビタミンやその他の活性物質の絶え間なく安定した供給を行うことができません。これらの腸内細菌叢が生産するはずのビタミンの不足が、検査を受けたGAPSの子供達と大人全員に見られます。彼らの腸内に健康な腸内細菌叢を復活させる事が、これらの栄養不足を解決する一番の方法なのです。
異常な腸内細菌叢を持った人々は大抵、様々な段階の貧血症に陥っています。それは何も驚くような事ではないのです。彼らは血の生産に必要不可欠なビタミンやミネラルを食べ物から吸収できないばかりか、これらのビタミンの体内での生産機能が壊れてしまっているのです。さらに悪い事に、この腸内細菌叢の壊れてしまっている人達の腸内には、鉄が大好きな病原菌がはびこっている場合が多いのです。(アクチノミセス属、マイコバクテリウム属、病原性の大腸菌属、コリネバクテリウム属、そして他にもたくさんの種類が存在します。)彼らはこの人が食事から得るどのような鉄分であっても、全て食べつくしてしまい、その人を鉄分不足に陥らせてしまうのです。そして残念な事に、鉄分のサプリメントを取ると、さらにこれらの悪玉菌が強力になってしまうだけで、本人の貧血は改善されないままという事になります。
私が会った大多数のGAPS患者が、青ざめてしまりのない顔をしていますし、血液検査の結果にも大抵貧血である事が出ています。これらの多くの患者が、お医者さんから鉄分のサプリメントを処方されています。しかしながら、貧血を改善しようとするなら、鉄分を補給するだけでは駄目なのです。健康な血液の生産に身体が必要な物は、マグネシウム、銅、マンガン、ヨウ素、亜鉛、そしてまだまだ沢山のミネラルと、多数のビタミン(ビタミンB1,B2,B3,B6、B12、C,A,D,葉酸、パントテン酸)と種々のアミノ酸といった原材料です。鉄分のサプリメントが貧血にあまり効果がない事は、世界中で行われている大量の調査研究が示しています。未だに医者達が貧血患者に鉄分のサプリメントを処方するがゆえに、鉄分を好物とする悪玉菌が繁殖し、すでに炎症を起こしてとても敏感になっているGAPS患者の腸の粘膜層に直接悪影響を与え、その結果、消化器官における大量の不快な副作用を引き起こしているのです。この事を思うと、私は悲しくなります。
異常な腸内細菌を持つ人々は、上記で述べたように、同時に幾つもの栄養不足を抱えています。GAPSの子供や大人を検査すると、全員の検査結果がミネラル、ビタミン、必須脂肪酸、多くのアミノ酸、そしてその他の栄養素など、複合的な栄養不足である事を示します。最も一般的な不足は、マグネシウム、亜鉛、セレニウム、銅、カルシウム、マンガン、硫黄、リン、鉄、カリウム、ナトリウム、ビタミンB1,B2,B3,B6,B12,C,A,D,葉酸、パントテン酸、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸、オメガ9脂肪酸、タウリン、アルファ-ケトグルタル酸、グルタチオンとその他の栄養素です。この不足栄養リストには、脳や免疫システム、その他の身体の正常な機能と発達にとって最も重要な事で知られる栄養素が含まれています。これらの状況下にありながら普通に成長しているように見えるGAPSの子供達もいて、彼らの年に似合わず身体が大きい場合も多いのですが、このような子供達は非常に重要な微量栄養素が不足しているのです。彼らの消化システムの状態を知れば、それは驚くような事ではありません。
健康な腸内細菌叢を保持しうまく機能している腸が、私たちの健康の根源です。まるで病んだ根っこを持った木が、すくすくと成長する事がないように、私たちの身体も、うまく機能する消化システムを持たずに、成長する事は出来ません。腸内の細菌の密集-腸内細菌叢が、それらの木の根の周りに住まい、根に対して生育環境、防衛、サポート、そして食物を与える土のような役割をしています。皆さんも御存知のように、木の根っこというのは深い土の中に隠れ見えない存在ですが、全ての大枝や小枝、全ての葉などがどんなに自慢げに高くそびえ遠くへ広がっていようと、それらの健康はその根っこによって支えられているのです。同じように腸内細菌叢の多様で複合的な機能が、腸を越えて身体中に及んでいるのです。次に、身体の中でも、最も重要な枝葉の一つである免疫システムについて、見てみましょう。